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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)30号 決定 1973年1月18日

被告人 中熊秋則

決  定

(住居、職業、氏名、生年月日略)

右の者に対する暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について、昭和四八年一月一六日、当庁裁判官がした保釈許可の裁判に対し、同日検察官から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

一、準抗告の趣旨および理由の要旨

被告人には刑事訴訟法八九条一、四、五号に該当する事由があり、かつ、裁量で保釈を許したのは不当であるから、原裁判は取消されるべきである。

二、判断

本件起訴事実が、刑事訴訟法八九条一号に該当することは明らかであるから、問題は、同法九〇条にもとづき保釈を許可した裁量権行使の当否にある。

同法八九条一号は、主に、所定の重大な犯罪を犯した被告人の場合一般に、保釈金の納付によつてはまかなえない程度に逃走の虞れがあり、このような重大事犯の犯人の身柄確保のためには、勾留を継続する必要があるとの判断にもとづき規定されたものと解される。そうとすれば、一号にあたるのに、裁量により保釈を認めるべき場合は、右の原則的判断をくつがえすに足る特別の事情の存在する場合、すなわち、保釈金により出頭の確保が期待できる例外的事情がある場合または、勾留の継続をさしひかえるべき事由があり、かつ、逃走の虞れが著しく高いとは認められない場合に限定すべきことになる。

本件をみるに、被告人は、重過失傷害罪等により禁錮刑(実刑、七月)の言渡しを受け、昭和四五年一一月一六日にその執行を終了しているので、今回の罪につき、刑の執行猶予をうける要件を欠いていること、本件は、被告人の経営する中和興業株式会社の受注状況の悪化が元請会社の専務取締役である被害者の仕打ちによるものと誤解し、右受注状況の悪化を打開するために企てたものと認められること、犯行態様は悪質で、かつ、被告人の独断的、短絡的傾向が反映していると認められること、傷害行為に関する事情には、なお微妙な点が残されていること、犯行により発生した結果が重大であり、被害者側に何ら責められるべき点はないこと、従前の勾留期間は本件事案の重大さに照らすと長期にわたるものとはいえないことなどの事情が認められる。これら事情にてらすと、保釈金により出頭を期待できる例外的事情も、勾留の継続をひかえるべき特別の事情もなく、かえつて、被告人の勾留を継続する必要性が高いといわざるを得ない。弁護人提出にかゝる示談書、上申書二通、身柄引受書に記載された事由および、保釈保証金が、かなり高額であることを考慮しても、本件被告人をこの段階で保釈するのは相当でない。

三、結論

従つて、原裁判は裁量を誤つたものというべく本件準抗告は理由があるので、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により原裁判を取消す。

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